フェリペ4世 (スペイン王)

スペイン王国史上、最も矛盾に満ちた君主の一人と言えばフェリペ4世である。

フランスのルイ14世に対比され「惑星王」と称された彼は、政務を寵臣たちに委ねた結果、帝国の衰退を招いた一方で、スペイン文化の黄金時代を築いた。

基本情報

 (称号は主たるもの、子女は主たる人物のみ記載)

人物の背景

English Available Here © Habsburg-Hyakka.com

フェリペ4世は1605年、スペイン王フェリペ3世とオーストリア大公女マルガリータ・デ・アウストリアの長男として生まれる。幼少期から厳格なカトリック教育を受け、王位継承者としての地位を確立していた。

彼が即位した1621年、スペイン帝国は広大な領土を支配していたが、その裏には三十年戦争や国内経済の混乱など、多くの課題が横たわっていた。

治世で起きた主要な出来事

• 三十年戦争とヴェストファーレン条約（1618–1648）

  フェリペ4世の治世は、ヨーロッパ全土を巻き込んだ三十年戦争と重なった。スペインは神聖ローマ帝国（ハプスブルク家）を支援するため長期戦に関与し、軍事費は天文学的な規模に膨れ上がった。
  さらに、スペイン軍の中核を成した「テルシオ」の戦術は時代遅れとなり、戦場で優位を失いつつあった。長期戦による財政難・補給線の疲弊は国力をじわじわと削り、1648年のヴェストファーレン条約によって ネーデルラントの大部分を喪失。
  かつて“太陽の沈まぬ帝国”と呼ばれたスペインの覇権に、明確な陰りが見え始めた。

• カタルーニャ反乱（1640年）
  戦争長期化に伴う兵站 (へいたん) 負担と重税が地方を直撃し、とくにカタルーニャでは不満が爆発した。領内駐留軍の暴行事件が引き金となり、住民は武装蜂起。カタルーニャ政府はフランス王国に保護を求め、一時はフランス王を“カタルーニャ伯”として迎え入れるほど、中央政府との対立は深刻化した。
  この危機は マドリードの中央集権体制の限界 を露わにし、スペイン全体の統治脆弱性を世界に印象づけた。

• ポルトガルの独立（1640年）
  同じ1640年、もうひとつの大事件が起きる。
  1580年以来続いていたイベリア同君連合が崩壊し、ブラガンサ家のジョアン4世がリスボンで即位。ポルトガルは60年ぶりに独立を回復した。
  背景には、戦争負担の増大、スペイン軍への不信、そして植民地防衛に関する戦略の違いがあった。
  この離脱は スペイン帝国の領土・資源・海洋覇権に大きな痛手 となり、フェリペ4世政権は深刻な国際的後退に直面する。

フェリペ4世の治世は、外では大戦争、内では反乱と離反が相次ぐ試練の連続だった。そのどれもが、かつての圧倒的な帝国がゆっくりと転機に向かっていく過程を示している。

スペインは依然として強大な王国だったが、この時代に刻まれたひびは、のちの衰退への序章となっていった。