【理性は帝国を救えるか?】啓蒙専制君主の栄光と限界

18世紀、ヨーロッパに「理性の光」が広がった。ヴォルテールやルソーといった思想家が「人間はもっと自由に、もっと平等に生きられる」と説いたのである。

啓蒙専制君主

© Habsburg-Hyakka.com / AI generated image)

だが、意外な人物たちがこの思想に耳を傾けた。

それは――王たちだった。彼らは王座を手放すことなく、「理性」を武器にして国を治めようとした。この奇妙な体制を、人々は 「啓蒙専制君主」 と呼んだ。

この記事のポイント
  • フリードリヒ2世は哲学者ヴォルテールと交わり“人民のしもべ”を自称した

  • ロシアのエカチェリーナ2世は啓蒙を掲げながら農奴制を温存し、反乱に直面した

  • ヨーゼフ2世は理想を信じ改革を急進させたが、人々に受け入れられなかった



フリードリヒ2世――哲人王にして軍人王

フリードリヒ2世

フリードリヒ2世 © Habsburg-

プロイセンの王フリードリヒ2世は、「哲人王」と称された人物だ。哲学者ヴォルテールと手紙を交わし、教育や法律を整備し、宗教の自由を広めた。

さらに、食糧不足を防ぐためにジャガイモの栽培を推奨したという逸話もある。だが、その手から離れることがなかったのは剣であった。戦場では「軍人王」として勇猛に戦い続けた。

理性と軍事力――二つの顔を持った王だったのだ。

エカチェリーナ2世――啓蒙の仮面をかぶった女帝

ロシアの女帝エカチェリーナ2世もまた、啓蒙思想家たちと交流を重ね、法律や学校の改革を試みた。しかし、現実は甘くない。

農奴制はそのまま維持され、農民たちの反乱(プガチョフの乱)を徹底的に弾圧した。「啓蒙の光」は彼女の宮廷を彩ったが、農民の暮らしにはほとんど届かなかったのである。



ハプスブルクにおける「もっとも真面目な啓蒙」

Joseph II

ヨーゼフ2世の肖像画 (出典:Wikipedia Commons Public Domain)

ハプスブルク家のヨーゼフ2世は、最も本気で啓蒙を実現しようとした皇帝だ。農奴制の廃止、宗教の自由、修道院の整理、統一的な法律――次々と改革を打ち出した。

だが、その熱意はあまりに急すぎた。人々は変化についていけず、反発も強まった。結果、彼の死後、多くの改革は取り消されてしまった。

「理性による帝国」という夢は、志半ばで潰えたのである。

民衆が気づいた矛盾

啓蒙専制君主たちは、口では「人民の幸福」を語った。しかし、実際に民に政治の権利を与えるつもりはなかった。

「自由」を語りながら、決めるのは王。「寛容」を謳いながら、反対派は弾圧。

その矛盾を打ち破ったのが、フランス革命である。人々が「自分で選ぶ政治」を求め始めたとき、王たちの“中途半端な理性”は崩れ去った。

まとめ

啓蒙専制君主とは、王様が「理性の力」を借りて国を治めようとした18世紀の不思議な政治体制である。

フリードリヒ2世のように改革と軍事を両立させた王、エカチェリーナ2世のように光と影を併せ持った女帝、そしてヨーゼフ2世のように理想に殉じた皇帝――彼らの挑戦は、成功と失敗を繰り返した。

だがその試みがあったからこそ、人々はやがて「自分たちの手で政治を作る」時代へと進んでいくことになる。啓蒙専制は、中途半端に終わったのではない。

むしろ 近代民主主義への架け橋 となったのだ。▶︎フランス革命とは何だったのか?ブルボン家崩壊の衝撃

関連記事:ヨーゼフ2世とは?なぜ理想の改革は民に届かなかったのか

参考文献
  • 宮本義己『図説 王室の世界史』河出書房新社
  • Derek Beales, Joseph II: Against the World 1780–1790 (Cambridge University Press)
  • Peter Gay, The Enlightenment: An Interpretation (Knopf)
  • 樺山紘一『世界の歴史17 ヨーロッパ近世の開花』中央公論社
・Kamen, Henry. Philip IV of Spain: A Life. Yale University Press, 1997.
・Elliott, J. H. The Count-Duke of Olivares: The Statesman in an Age of Decline. Yale University Press, 1986.
・Parker, Geoffrey. The Grand Strategy of Philip IV: The Failure of Spain, 1621-1665. Yale University Press, 2000.
・Brown, Jonathan & Elliott, John H. A Palace for a King: The Buen Retiro and the Court of Philip IV. Yale University Press, 2003.
・Stradling, R. A. Philip IV and the Government of Spain, 1621-1665. Cambridge University Press, 1988.

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